2026/03/07 17:34
量産家具は「生活を満たす」もの、作家家具は「生活に染み込む」もの
その家具が、使う人の暮らしとどう関わっていくか——そこに決定的な差があると私は思う。
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家具の仕事を続けていると、お客さんからこんな言葉をもらうことがある。
「なんか好きなんですよね」
機能の話でも、使い心地の話でもない。感覚。
作家家具には、設計から素材選び、加工、仕上げまで、一人の人間の一貫した思想や判断が宿っている。その判断は数値や規格では測れないが、確かにかたちとして現れる。使う人はそれを言語化できなくても、どこかで感じ取っている。その「感じ」こそが、作家ものの核心だと思う。
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「手作りだから丈夫」というイメージを持つ方もいるが、これは少し違う。
私は会社員時代、家具量産メーカーの企画部に勤務していました。
素材選びの点では作家物の方が長期で使用できる高級な素材を使用していることが多いが、量産家具は、試作品で耐久試験を行い、一定の基準をクリアしたデザインのものが市場に出る。品質のばらつきが少なく、壊れにくさという点では、むしろ量産品の方が信頼性が高いこともある。
価格も手頃で、豊富なバリエーションがある。
現代の暮らしに必要なものを、きちんと揃えてくれる存在だ。
では作家家具の価値はどこにあるのか。それは「唯一性」と「作り手との関係」だと私は思う。同じ設計から作っても、二脚として同じものは生まれない。そして、どこの誰がどんな意図で作ったかが明確にわかる。その固有性と文脈が、量産品にはない価値を生む。
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どちらを選ぶかは、暮らしへの向き合い方の話だ。
量産家具を否定したいわけではまったくない。
私自身、自宅に量産品家具を沢山使っている。
ただ、作家ものを選ぶということは、「この家具の背景ごと迎え入れる」という感覚に近いと思う。どんな木で、誰が、どんなことを考えて作ったか。その文脈を知った上で部屋に置く。小さな傷がついても、それがまた馴染んでいく。そういう関係性を家具に求めるかどうか——それは暮らしへの向き合い方そのものではないかと思う。

