2026/02/24 22:32

良い椅子とは、「座る人の時間を豊かにするもの」であると私は考えます

良い椅子とは、単に体を支える道具ではない。それは、座るという行為そのものに意味と質を与えるものだと、私は考えている。


なぜそう言えるのか

木工の仕事をしていると、「椅子」ほど奥が深いものはないと常々感じる。

テーブルや棚は、ものを置いたり収納したりという機能がはっきりしている。でも椅子は違う。椅子に座る人は、その上で食事をし、本を読み、誰かと話し、ぼんやりと窓の外を眺める。椅子は、人間の「時間」と直接つながっている家具なのだ。

だからこそ、椅子を設計するとき私がまず考えるのは「どんな時間をそこで過ごすか」という問いだ。機能やサイズより先に、その椅子に座る人の時間を想像する。その問いへの答えが、椅子のかたちを決めていく。


「良い椅子=高級な椅子」ではない

よく、良い椅子の条件として挙げられるのは、腰への負担が少ない、長時間座っても疲れない、耐久性がある、といった機能面の話だ。もちろん、それらは大切だ。否定はしない。

ただ、人間工学的に完璧な椅子が、必ずしも「座りたい」と思わせる椅子かというと、そうではない。機能だけで語られる椅子は、どこかオフィスや医療機器の文脈に近づいていく。

私が作りたいのは、「また座りたい」と思わせる椅子だ。手に触れたときの木の温もり、座ったときのわずかな沈み込み、部屋に置いたときの佇まい——そういった感覚的な要素が、椅子を道具から「居場所」へと変える。


ペーパーコードの座面が教えてくれること

私が特に好きな素材のひとつが、ペーパーコードだ。

ペーパーコードとは、紙を撚り合わせて作られた紐を、格子状や斜め掛けに編み込んで座面に仕上げたもの。北欧の椅子、とりわけデンマークのデザインで多く使われてきた伝統的な技法だ。

この素材は、見た目の繊細さとは裏腹に、非常に強靭で耐久性がある。経年とともに色が変化し、使い込むほどに味が出る。座ったときの感触は、クッションのような柔らかさではなく、適度な硬さと弾力を持ったもの——最初は「思ったより硬いかな」と感じる人もいるが、じきに体が馴染んでくる。

そしてペーパーコードの最大の魅力は、その「呼吸感」にある。編み目に空気が通り、夏は涼しく、冬も冷たくなりすぎない。合皮やファブリックとは違う、素材そのものの正直さが好きだ。

木の脚とペーパーコードの座面の組み合わせは、私にとって「良い椅子」の理想形のひとつでもある。人の手と自然素材が織りなす、シンプルで誠実なかたちだと思っています。


椅子は、暮らしの中の小さな哲学だ

椅子に座るという行為は、実はとても能動的なことだと思う。どこに座るかで、その時間の質が変わる。

良い椅子は、特別なことをしない。ただ静かにそこにあって、座る人を支え、その時間を少しだけ豊かにする。

私はそういう椅子を作り続けたいと思っています。


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